『ジーザス・クライスト=スーパースター』が待望のBlu-ray化されていた
学生時代、映画を観まくっていた。
中学生の時分は建て替え前の池袋文芸坐の入場料は2本立300円で、親の目を盗んで初めて「名画座」というものを体験。
そこからが始まりで、ちょうど『スターウォーズ』の日本公開と、『宇宙戦艦ヤマト』に始まるアニメ・ブームで劇場版長編アニメの公開ラッシュとなり、次々と劇場に足を運んだものだった。
そんな学生時代に出遭った映画の中でも、メジャーな娯楽大作よりもちょっとマイナーだったりカルトな作品に心を惹かれた。
たとえば『太陽を盗んだ男』や『ミッドナイト・エクスプレス』であったり、『イージー・ライダー』や『スケアクロウ』などのアメリカン・ニューシネマ。
やはり10代、20代の頃にいいフィルムを沢山観た強烈な体験が、後々の情操を育む一助になったのだと思う。
…まぁ玉石混交でジャンクなものもいっぱい観てきてもいるんですが。
その中でもこの『ジーザス・クライスト=スーパースター』は’84年のリバイバル公開の折に観賞して、強烈な印象を摺り込まれた作品のひとつだった。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』はイエス・キリスト最後の7日間を描いたブロードウェイのミュージカル。
それを、同じくブロードウェイミュージカルのマスターピース『屋根の上のバイオリン弾き』も手がけたノーマン・ジュイソンが監督した映画作品。
って、てっきりずっとそう思ってたんですが…
Wikiをみるといちばん最初にコンセプト・アルバムが出て、それを基にミュージカル舞台が作られ…という順番のようですね。’60年代のあの当時ザ・ビートルズ「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」や「Yellow Submarine」のように、そうした物語性の高いアルバムが作られてたので、そのうちのひとつという位置付けだったのでしょうか。「Tommy」なんかもそうかな。
この『ジーザス~』は他のミュージカル映画とは少々違ってて、セリフと歌の区別がなく全編途切れることなく歌が続くという構成で、
(普通はセリフ~歌~セリフ~歌~…のように順番になる。『サウンド・オブ・ミュージック』を思い出せばわかりますね)
最初から最後まで途切れることなく音楽が流れ、歌だけでドラマが進んでいくという構成。
よく「男性はミュージカル映画が苦手」という話があるけれど、その原因のひとつがこのセリフ~歌~セリフ~歌~…に違和感を覚えてどうしても劇に入り込めない、というのがあるらしい。
(たぶん舞台で観るぶんには平気なんだろうけど)
まあ、舞台と違って映画だとリアルなセットや実際の場所でロケをしたりするので、そんな(たとえば)街のド真ん中でいきなり歌を歌うヤツなんかいねーよ、というのがなじめない理由なんでしょうが。
こうした”全編歌だけで劇が進んでいく”作品は、他には『シェルブールの雨傘』があって、この『ジーザス~』と共に
“男性が大丈夫なミュージカル映画”の代表となっている。
ジュイソン監督はこの全編歌の『ジーザス~』を舞台の「オペラ」になぞらえ「ロック・オペラ」と称した。
シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組) [DVD]
さて、といったところで今回紹介するのは、その『ジーザス・クライスト・スーパースター』。
この’73年の映画版『ジーザス・クライスト-スーパースター』は、ソフトとしてはこれまでVHSビデオ版とレーザーディスクしか出たことがなく長く心待ちにしていたんですが、昨年ようやく国内でもDVD&ブルーレイがリリース。
ジーザス・クライスト=スーパースター(1973) [Blu-ray]
しかも廉価版!!
何せレーザーディスク以来出たことがなかったので、これは本当に待ちに待ったソフト化!!だったわけです。
これまでずっとDVDにもならず仕方なくYoutubeにアップされたポルトガル語字幕版なんかで観たい欲求を補填してたんですが、これでいつでも好きなだけ浸れます。
この作品はいわゆるキリストの受難劇なんですが、現代劇風なアレンジがなされ、戯画化されています。
それが自分が好きな理由でもあるのだけれど。
ということで、自分のオールタイム・ベストなこの1本。
まずはざっとあらすじを。(画像はブルーレイ版より)
広大なイスラエルの沙漠の中、
キャラバンカーで撮影隊がやって来る。
次々と降り小道具や衣装の準備をする出演者たち。
中心からジーザスが降臨して、物語の始まり
沙漠の中に佇むのはユダ。使徒の中、唯一の黒人として描かれる
ユダヤの司教たちは建築の足場の教会で会議。アバンギャルドなセット!!
ローマ兵は工事現場の労働者の風体。
まあ、このあといろいろあってユダが裏切ったりしてイエスは捕らえられるんですが(ざっくりし過ぎ!)そこは端折りましょう。
(くわしくはwebぢゃなくBIBLEで!!)
明日の運命を見据えてジーザスは弟子たちと「最後の晩餐」を行う。
ダ・ヴィンチのあの絵の構図がオマージュされる。
ジーザスを裁くのは退廃的なヘロデ王!
ヘロデ最高!!!
(もちろんローマ総督ピラトも出てくるけれどこのヘロデが強烈すぎるので割愛)
磔にされる前夜、ジーザスの前にユダの幻が現れ…
(まるでロックスターのように吊るされてステージに降り立つ!!)
ジーザスを激しく糾弾する。
(これがメッチャかっちょイイ!!)
あらゆる努力虚しくジーザスはローマ兵により磔にされ、
神に「なぜ私を見捨てたか」と嘆き、絶命する。
すべてが終わり、キャラバンカーに乗り込む一行たち。ピラトも、ヘロデも名残を惜しむように車に乗り込む。
マグダラのマリア。
そして、ユダ。めちゃめちゃいいシーン。
車が沙漠を後にする。
丘の上に残る十字架。
もうね、この冒頭の撮影隊が沙漠にやってきて、最後に去っていく、というシチュエーションからクラクラやられちゃいます。
あえて衣装やセットもミニマムに抑えてジーザス以外は現代的な服装だとか、12使徒たちはグランジファッションだとか。
あの当時のヒッピームーヴメントの匂いを色濃く反映した演出で2000年前のキリスト劇を再現する、という実にアングラチックな手法に初見当時は心鷲掴みにされたもの。
ついでだけど、劇団四季の「ジャポネスク・バージョン」は日本趣味で前衛的な舞台セットと衣装・メイクで、これは浅利慶太の畢竟の作品だと思う。
ヘロデがまた凄まじいほどのイカれたオリジナリティを爆発。
四季ものには珍しくアングラ演劇風ですね。
舞台ミュージカルにはほとんど興味はないし、加えて四季の舞台は尚更なんだけど、こと『ジーザス・クライスト=スーパースター』に関してだけはこの映画の影響でぜんぜん別格で、学生時代に日生劇場でベーシックな「エルサレム・バージョン」を観、更に上のジャポネスク版もどうしても観たくて、数年観逃した後ようやく2012年11月に実現することができました。
ジャポネスク版は上にあるスチルでも充分に雰囲気が伺えるように、斬新で前衛・かつ挑戦的で、メジャー志向の劇団四季にあってかなり異色の舞台。自分も唯一”好き”と断言できる四季ミュージカルです。
と、いうわけで、どうしても欲しかったソフトがようやくBlu-rawで入手できるようになったのは喜ばしいことです。
30年、待った甲斐がありました…もう仕事中にパワープレイします!
ジーザス・クライスト=スーパースター(1973) [DVD]
ジーザス・クライスト・スーパースター ― オリジナル・サウンドトラック
あわせて観たい。
モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン(1枚組) [DVD]
ベン・ハー 特別版 [DVD]
※ブロードウェイ舞台版とくらべてみるのも一興。
ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー [DVD]
舞台版と映画版をカップリングしたパッケージ版もあり。
ジーザス・クライスト=スーパースター トリプル ベストバリューBlu-rayセット
●これ↓は舞台版を基にしたオリジナル映像なので注意!! (’73年ノーマン・ジュイソン版ではない)
ジーザス・クライスト=スーパースター [DVD]
※上のトリプルパック版にも収録されているようです。